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無造作に撒き散らした赤と群青。
オフィス街を抜けた私の目にこの斑色が映る、その意味に気付いた私はまた呟く。
 「ここはね、独りの帰り道なの」
児童公園の入り口を抜ける。
急激な都市開発事業の『ささやかな良心』。
こんな場所に子供なんて居る訳が無いのに。

「体が慣れちゃってるのかしらね?せっかく今日は2人なのに」
「・・・『独り』、に?」
「・・・そうね」

「でも・・・」
「何?」
「・・・それが『蒔季さん』ですよ」
「・・・・どれが?」

「その・・・『凛々しい』っていうか・・・」
「ふっふーん。そうかもねー、凛々しいかもねー」

「それがなんであんな・・・」
「なんだか歩くの勿体無いわね・・・ぃしょ!」
これからの事を考えて、殊更はしゃぐように
ベンチに体を預ける。
私の隣の空間を『見ないように』見ながら、
やっぱり彼は向かい側のブランコに座った。
(次は膝から下だけで漕ぐわね) と、思った矢先にキィ、キィと始めたので、声を出して笑ってしまう。
「酷いです蒔季さん!僕ずっと気になってて!今日だって・・・」

「だ、だって秋桜君、可愛いからっはっは!」
「蒔季さ・・・!」
「じゃぁ話してあげるわ」
我ながら絶妙なタイミング。
「あの日の、いいえ『私』の事を、ね・・・」
今、私の眼は5年前に戻っているのだろう。
彼の顔がそうである様に。

「あ、あのでもやっぱり無理に話してくれなくても・・・」
唇に指を立て、静かに息を吐く。
ざざ、と木々が鳴いたが、髪は乱れなかった。

「さっき私の事『最初は近寄り難い』って言ったわよね?」
「は、はい...」
「それは間違いなく『私』よね?でも話してみると、優しい『お姉さん』だった。ね?」
「はい!『先輩、じゃなくて蒔季さん、でいいわよ』って笑ってくれて!」 「そうだったわ。でもね、もし君が私を見て『眼が気に入らない!』って向かって来たらどうなったと思う?」
「決まってますよ!鋭い眼差しで一喝!!」
「ううん、違う」
「ヘ!?」
「泣くわ。涙こぼして泣いて、謝るの。何度もね」
「まさか!嘘ですよそんなの!」
「嘘じゃないわ。これも紛れもない『私』。ただ、君の求めなかった『私』、なのよ」
「・・・よく、解りません・・・」
ふぅ、と息を付き、私は更に『優しい私』になる。
「・・・楽に生きたい、と思ったの。だから他人の要求に応える『私』を幾つも持ったのよ。1人の私を100人に理解して貰うのは大変でしょ?」
「・・・・」
「お昼休み、コンビニの袋を持って緊張してたのは、『優しい私』と食べたかったから、でしょ? なら私に拒む理由は無いの。幸い、って言うのもなんだけど、部員の皆は私に好意的で居てくれたわ。それは凄く感謝してるの」
「そんなに・・・」
「え?」
「そんなに沢山の蒔季さんは要りません・・・」
「そうね。君には君の『蒔季』が居るものね」
「そ・・・違います!じゃぁ・・・っ!!」
「どうしたの?また、飲み込むの?」
キッ、と私を睨む。苛めていたあの頃と同じ表情だったが、今はいっぱしの男の顔だ。
「僕が・・・僕が持ってたのがコンビニの袋じゃなく手紙だったら!?」

「・・・・良かった・・・・」
「え!?」
「君が『臆病な子』で良かった、ってね」
黙ってブランコに落ちる。でも眼は私を捉えたままだ。

「・・・でも『彼』は違った。臆病どころか自信に満ち溢れていたわ。何の裏打ちも無く、だったけどね・・・」
「・・・じゃぁ、あの・・・」
「・・・みんな知ってたのね。私と『双葉君』の事」

「みんなじゃない!僕だけです!!蒔季さんの事は僕が一番良く知っ・・・ぁ・・・」
知っている事と理解する事とは違う。
それを『理解』してしまったのか、彼は寂しそうに俯く。
そしてそれは私の『罪』だ。


 
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